【オバマ大統領広島訪問】核は「使えぬ兵器」から「使える兵器」へ変貌 被害極小化も…「心理的ハードル下がった」恐れ
「人類が自らを破壊するすべを手に入れた」。
被爆地・広島を27日に訪れたオバマ米大統領は、核軍縮の必要性を強く訴えた。膨大な人命を奪う非人道性から「使ってはならない兵器」と封印されたかにみえた核兵器だが、実戦使用を念頭にした弾頭の小型化などの開発が今も進む。威力を抑え軍事施設をピンポイントで攻撃し、民間被害を最小限にする狙いとは裏腹に、専門家からは「むしろ核使用の心理的ハードルは下がった」とも指摘される。(塩原永久)
ロシア「最高機密」の実態は
「彼ら(ロシア)が新型爆弾の開発に取り組んでいると確信している」。オバマ氏への助言役ともいわれる核問題の専門家、ウィリアム・ペリー元米国防長官は最近、軍縮関連誌でこう述べ、強い懸念を示した。
「最高機密」(軍事専門家)とされるロシアの開発内容は、爆発の威力を抑えた小型の核兵器を用いるものだとの見方が根強い。昨年、露国営メディアに開発中のものとして報じられた新型兵器は、敵の殺傷を目的としたものではなく、小型核の爆発で発生させた放射性物質により、都市を居住不可能にさせることで敵国にダメージを与える狙いがあると指摘されている。
オバマ氏も…1兆ドル計画を承認
こうした新たな兵器開発は米国も力を入れる。昨年に新型の兵器「B61-12」の投下実験を実施。小型の弾頭を積んだミサイルの精密誘導性能を高め、攻撃対象以外に被害が及ぶのを防ぐためとみられている。
核軍縮を訴えるオバマ氏自身、今後30年間で1兆ドル(約110兆円)を投じる核兵器の「再生計画」を承認した。オバマ政権も「新たな戦略環境に応じた核抑止力の向上を目的に開発を続けてきた」(拓殖大学の佐藤丙午教授)という。
冷戦時代の恐怖は、米ソの首脳が「核のボタン」を押すことでの全面核戦争だった。新たな核兵器には、専門家から「核の“敷居”を下げる恐れがある」(元駐ウクライナ米大使のパイファー氏)などと、核使用の心理的抵抗感を小さくするとの見方も出ている。
また、小型の弾頭が用いられるのは、大陸間弾道ミサイル(ICBM)に比べ射程が短い「戦術核」が中心になるが、この分野の軍縮交渉は手つかずだ。
オバマ氏が広島の地を踏んだ姿は各国で報じられ、「核なき世界」の機運を高めるだろう。ただ、停滞する核軍縮交渉に「具体的な動きがすぐに出てくるかといえば、非常に難しい」(佐藤教授)のが現実だ。